「あなたに逮捕状が出ています。身の潔白を証明するために、金の延べ棒を買って自宅玄関前に置いてください」――警察を名乗る相手から、こんな電話がかかってきたら、それは典型的なニセ警察詐欺です。警察庁の発表によれば、令和7年(2025年)11月末までに金地金(金の延べ棒)をだまし取る被害は121件、被害総額は約36.8億円。1件あたりの平均被害額は約3,039万円と高額化しています。この記事では、警察庁・SOS47の公式情報をもとに、手口・見分け方・対処法をやさしく解説します。
1. 「金の延べ棒を玄関に置いて」これは典型的な詐欺の手口
警察を名乗る相手から突然電話がかかってきて、こんなことを言われたら――。
「あなたに金融詐欺の逮捕状が出ています。身の潔白を証明するためには、すべての資産を確認させてください。預貯金を金地金(金の延べ棒)に交換して、自宅玄関前に置いてください。捜査のため一時的に預かります」
これは、警察庁が令和7年(2025年)3月10日に公式に注意喚起している、金地金をだまし取るニセ警察詐欺の典型的な手口です。警察庁・SOS47は公式サイトで、次のようにはっきりと示しています。
- 警察官等をかたる者から購入等した金地金を、自宅玄関、公園の滑り台の下等の屋外に置いておくよう指示される
- それは、詐欺です!
警察が捜査のために、市民に金を買わせたり、自宅前に置かせたりすることはありません。たとえ警察手帳の画像をLINEで送ってきても、本物のように見える書類を見せられても、金や現金を要求された時点で詐欺と判断していい場面です。
2. 警察庁の最新データで見る、金地金詐欺の深刻な実態
金地金をだまし取る詐欺は、ニセ警察詐欺の中でも特に被害額が高額化している手口です。警察庁が令和7年(2025年)11月末時点で発表した暫定値(速報値)によると、状況は次のようになっています。
1件あたりの被害額が約3,039万円
- 金地金をだまし取るニセ警察詐欺の認知件数:121件
- 被害総額:約36.8億円
- 1件あたりの平均被害額:約3,039万円
- 2025年10月の1か月だけで:13件・約7.9億円の被害
一般的な特殊詐欺の1件あたりの被害額が数百万円の単位であるのに対し、金地金詐欺は1件で3,000万円規模と桁違いです。老後の蓄えや退職金が、ほんの数日で消えてしまうケースが報告されています。
令和7年は特殊詐欺の被害額が過去最悪
警察庁が令和8年(2026年)2月に発表した確定値によると、令和7年(2025年)1年間の特殊詐欺の被害額は1,414億円を超え、過去最悪となりました。そのうち約7割をニセ警察詐欺が占めており、若い世代にも被害が拡大しています。
2つの手口:「玄関前に置く」と「直接渡す」
金地金をだまし取る詐欺には、大きく分けて2つの手口があります。
- 手交型(直接渡す):自宅を訪問してきた「受け子」と呼ばれる回収役に直接手渡す。認知件数の約9割(105件)、被害額の約8割(29.2億円)を占める
- 送付型(屋外に置く):自宅玄関前、公園の滑り台の下、近くの敷地などに置いて、後から犯人グループが回収する。件数は少ないが被害額は7.6億円
どちらの手口も、「警察」「検察」など公的機関を名乗って、被害者を信じ込ませてくる点が共通しています。
3. なぜ金の延べ棒なのか?犯人グループの狙い
金地金(金の延べ棒)を狙う理由は、犯人グループにとって金が「現金よりも便利な犯罪収益」になるからです。
金地金が狙われる3つの理由
- 取引の追跡が難しい:銀行振込と違い、金地金は物理的に運べるため資金の流れを追いにくい
- 換金性が高い:貴金属業者で売却すれば、すぐに現金化できる
- マネーロンダリングに使える:偽の刻印を入れて再販する手口も確認されている
実際に警視庁は、令和7年(2025年)11月、特殊詐欺で入手したとみられる金地金に偽の刻印を入れて売却していたグループを摘発しました。被害規模は約95億円に上るとみられています。金の延べ棒を狙う詐欺は、組織的な犯罪の一部として広がっているのです。
4. 金地金詐欺の典型的な流れ
警察庁・SOS47が発表している手口の流れに沿って、被害者がどのように追い込まれていくかを見ていきます。
ステップ1:警察を名乗る電話がかかってくる
多くの場合、固定電話に「+」から始まる国際電話番号で着信があります。電話に出ると、警察官や検察官を名乗る人物が次のように切り出します。
- 「あなたの口座が犯罪に使われています」
- 「マネーロンダリングの容疑で逮捕状が出ています」
- 「このままだとあなたが逮捕されます」
突然の電話に被害者は驚き、冷静な判断ができない状態に追い込まれます。警察庁の発表によると、ニセ警察詐欺の初期接触の99%が電話です。
ステップ2:LINEに切り替えて「逮捕状」の画像を送る
電話で恐怖を植え付けた後、犯人はLINEなどのSNSに切り替えてきます。そこで「逮捕状」「警察手帳」と書かれた画像を送り、被害者を信じ込ませます。
本物の警察は、SNSで逮捕状や警察手帳の画像を送ったり、ビデオ通話で取り調べを行ったりすることはありません。
ステップ3:「身の潔白を証明するため」と金地金の購入を指示
「あなたが犯罪に関わっていないことを証明するために、すべての資産を確認させてください」――こう言われた被害者は、貯金を全額引き出して金地金を購入するよう指示されます。
このとき、犯人は次のように具体的な指示を出してきます。
「銀行から預金を全額引き出してください。
その足で貴金属店に行って、金の延べ棒を購入してください。
途中、誰にもこの話をしてはいけません。捜査機密です」
「家族や警察に相談するな」と口止めするのも、犯人グループの典型的な手口です。
ステップ4:玄関前に置かせる、または直接受け取りに来る
金地金を購入した後、犯人は次のいずれかの方法で受け取ります。
- 送付型:「自宅玄関前に置いてください」「近くの公園の滑り台の下に置いてください」と指示し、別の場所から監視していた受け子が回収する
- 手交型:自宅を訪問してきた「捜査員」を名乗る人物に、直接手渡す
どちらの場合も、被害者は「捜査が終わったら返してくれる」と信じてしまっています。しかし、犯人は二度と現れません。
5. 本物の警察と偽物を見分ける5つのポイント
警察庁・SOS47は、本物の警察と偽物の警察を見分けるために、次のポイントを公式に示しています。
ポイント1:本物の警察は「+」から始まる国際電話を使わない
「+」や「+1」「+44」などから始まる電話番号は、海外から発信されている国際電話です。日本の警察が、海外の電話番号から市民に電話をかけることはありません。番号表示を見て国際電話番号だと気づいたら、出ずに切ってかまいません。
ポイント2:本物の警察はSNSで連絡しない
警察がLINEなどのSNSで一般市民に連絡することはありません。「警察手帳」「逮捕状」の画像をSNSで送ってきた時点で、それは詐欺と判断していい場面です。
ポイント3:本物の警察は金銭の振込や金地金の購入を求めない
これがいちばん重要なポイントです。警察庁・SOS47の公式サイトには、はっきりこう書かれています。
本物の警察は、逮捕を免れることを理由に、
金銭の振込や出金を指示したり、
金地金の購入を求めたりすることはありません。
金や現金を要求された時点で、それは詐欺です。
ポイント4:本物の警察は「玄関前に置いて」と指示しない
「捜査のため一時的に預かる」「自宅玄関前に置いて」「公園に置いて」と指示してくるのは、ニセ警察詐欺の典型的な手口です。本物の警察が、市民の財産を屋外に置かせることはありません。
ポイント5:本物の警察は「家族に相談するな」とは言わない
犯人は「捜査機密だから家族にも話さないでほしい」と口止めしてきます。これも詐欺のサインです。本物の警察は、市民が家族や弁護士に相談することを止めません。
6. やってはいけない4つの行動
金地金詐欺の被害を防ぐために、やってはいけないこと
① 警察を名乗る電話で「金を買って」と言われて従う
② LINEで送られてきた「逮捕状」の画像を信じる
③ 金地金を「玄関前」「公園」など屋外に置く
④ 「家族に話すな」という指示を守って一人で抱え込む
特に重要なのは「金や現金は誰にも渡さない」という1点です。たとえ相手が本物の警察を名乗っていても、捜査のために市民に金や現金を要求してくることは決してありません。金銭を要求された時点で、電話を切って警察相談専用電話「#9110」に相談するのが、被害を防ぐ効果的な方法です。
7. 正しい対処法
警察を名乗る不審な電話がかかってきた場合や、すでに不安に感じている場合の対処法を、順を追って紹介します。
対処1:その場で電話を切る
「逮捕状が出ている」「口座が犯罪に使われている」と言われても、慌てて答えてはいけません。本物の警察ならいきなり電話で逮捕の話をすることはないと覚えておき、いったん電話を切りましょう。
対処2:相手から教えられた電話番号にはかけ直さない
犯人は「不安なら〇〇番にかけ直してください」と、別の電話番号を伝えてくることがあります。相手から教えられた番号にかけ直してはいけません。その先も犯人グループにつながる仕組みになっているからです。
対処3:自分で警察署の電話番号を調べて相談する
警察庁・SOS47は次のように呼びかけています。
最寄りの警察署等に相談してください。
※ 警察官等をかたる詐欺が多いことから、御自身で警察署の電話番号を調べるなどして御相談ください。
インターネットで「最寄りの〇〇警察署」を検索するか、警察相談専用電話「#9110」に電話して相談しましょう。
対処4:家族に話す
犯人は「誰にも言わないで」と口止めしてきます。だからこそ、家族と共有することが効果的な対策になります。一人で判断せず、必ず家族や信頼できる人に相談してください。
対処5:国際電話番号からの着信をブロックする
金地金詐欺の入り口は、ほとんどが「+」から始まる国際電話です。海外と電話する用事がない家庭なら、固定電話の国際電話を無料でブロックする手続きが警察庁から案内されています。詳しくは 海外と電話しないなら今すぐ「#みんとめ」!国際電話詐欺の無料ブロック設定 をご覧ください。
携帯電話・スマホには、警察庁が推奨する無料の防犯アプリで対策できます。インストール方法は 詐欺電話を自動ブロック!警察庁推奨の無料アプリの入れ方 で解説しています。
8. 家族と一緒に守るために
金地金詐欺の被害者は、退職金や老後の蓄えがある50代以上の世代に多く広がっています。家族みんなで手口を共有して、被害を未然に防ぎましょう。
家族と共有したい3つのこと
- 警察から電話で「金を買って」と言われたら、それは詐欺
- 「玄関前に置いて」「公園に置いて」と指示されたら、それも詐欺
- 「家族に話すな」と口止めされたら、まさに詐欺の典型
事前にできる予防策
家族で次のような予防策を相談しておくと、いざという時に冷静に行動しやすくなります。
- 固定電話を留守番電話に設定して、知らない番号には出ない習慣をつける
- 「+」から始まる国際電話番号には出ないルールを家族で共有する
- 大きなお金が動く話は、必ず家族に相談する習慣をつくる
- 不審な電話があったら、家族のグループLINEで報告し合う
- 高齢の親には、警察を名乗る電話があっても一度切って家族に連絡することをくり返し伝える
金地金詐欺は、警察を名乗る電話から始まります。最近では、スマホの着信画面に本物の警察署番号(末尾「0110」)を偽装表示させる「スプーフィング」と呼ばれる新しい手口も急増しています。
あわせて スマホに警察署から着信は詐欺!末尾0110の偽装手口 もご覧ください。
9. もし被害に遭ってしまったら
すでに金地金を渡してしまった場合や、振り込んでしまった場合は、すぐに次の対応をしてください。1分でも早い対応が、被害金の取り戻しにつながる可能性があります。
対応1:すぐに警察「110番」または「#9110」に電話
金や現金を渡してしまった場合は、すぐに110番に電話して被害を伝えましょう。事件として扱うべきか迷う段階では、警察相談専用電話「#9110」でも構いません。早く相談するほど、犯人グループの追跡がしやすくなります。
対応2:銀行に連絡して取引を止めてもらう
金地金を購入するために銀行から預金を引き出した直後であれば、銀行に連絡して取引停止や口座凍結などの対応を依頼してみてください。送金した直後であれば、銀行が対応してくれる場合があります。
対応3:消費者ホットライン「188」にも相談
消費者問題としての側面もある場合は、消費者ホットライン「188」(いやや)にも相談できます。最寄りの消費生活センターにつながり、専門の相談員がアドバイスしてくれます。
対応4:振り込め詐欺救済法による被害回復
振り込め詐欺救済法という法律に基づき、犯人の口座が凍結された場合、被害金が一部または全額返還される制度があります。預金保険機構や金融機関に確認してください。
対応5:弁護士会への相談
被害金額が大きい場合は、各地の弁護士会の法律相談を利用するのも一つの方法です。警察や消費生活センターから紹介してもらえることもあります。
まとめ:「金を買って」と言われたら、それは100%詐欺
金の延べ棒を狙う詐欺は、警察を名乗る電話から始まり、LINEで偽の逮捕状を見せ、最終的に「自宅玄関前に置いてください」と指示してくる――手口は驚くほど共通しています。
1件で3,000万円規模の被害が出るこの詐欺は、退職金や老後の蓄えを一瞬で奪っていきます。しかし、だからこそ、「警察が金を要求することはない」というたった一つのことを覚えておくだけで、被害を防ぐことができます。
覚えておきたい3つの合言葉
- 警察が「金を買って」と言ったら詐欺:本物の警察は金や現金を要求しない
- 「玄関前に置いて」と言われたら詐欺:捜査のために市民の財産を屋外に置かせることはない
- 「家族に話すな」と言われたら詐欺:本物の警察は家族への相談を止めない
実家の親が一人で電話を受けて、慌てて行動してしまわないように、今すぐこの記事を家族のLINEに送ってください。たった5分の確認が、3,000万円の被害を防ぐきっかけになります。
情報源:警察庁「令和7年11月末における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」、警察庁・SOS47「警察官等をかたり『金地金』を詐取する特殊詐欺について」(令和7年3月10日発表)、警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」(令和8年2月12日発表)、警察庁・SOS47「ニセ警察詐欺に注意!」、政府広報オンライン「撲滅ニセ警察詐欺。”#みんとめ”であなたのお金を守ろう!」、警察相談専用電話「#9110」、消費者ホットライン「188」、振り込め詐欺救済法、預金保険機構
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