続かない理由を「意志が弱いから」で片づけると、次の手が出てきません。労働者を対象にした研究では、運動を続けている人と続いていない人で、「健康に良い」という理由の点数にほとんど差がありませんでした。差が出たのは別の要素です。この記事では、その研究が何を示したのかを確認したうえで、続ける形の作り方を整理します。
「メリットを理解すれば続く」は成り立っていない
産業医科大学の江口泰正氏らは、「運動継続者に見られる継続理由の特色―労働者における運動継続への行動変容アプローチに関する研究」(日本健康教育学会誌 2019年)で、労働者に質問紙調査を行っています。1,020名から回収し、有効な521名分を分析した横断調査です。
継続理由の強さを1〜5点に得点化して比べたところ、運動を続けている人の上位は次のとおりでした(推定平均値)。
| 運動を続ける理由(継続者の上位) | 得点(1〜5点) |
|---|---|
| 体力向上 | 4.02 |
| 体型維持 | 3.98 |
| 健康への好影響 | 3.90 |
ここまでは予想どおりに見えます。ただし論文は、非継続者も上位は同様だったと報告しています。続いていない人も、運動で得られる利益は同じように認識していたということです。
つまり、「体に良いと分かっていること」では、続く人と続かない人の差を説明できていません。情報を足す、メリットを再確認する、といった方向では動かない部分があるということです。
差が出たのは「楽しさ・高揚感」
論文は、継続理由を因子分析して5つの因子を取り出しています。
- 楽しさ・高揚感
- 依存・自尊
- 外観・陶酔
- 健康利益
- 飲食的充足
このうち、運動継続者に見られる顕著な特性として「楽しさ・高揚感」の重要性が示唆されたとしています。また「飲食的充足」については、非継続者のほうが継続者より有意に得点が高いという結果でした。
結論として論文は、労働者における運動継続への動機として「楽しさ・高揚感」が最も重要であることが示唆され、この因子への良いフィードバックが継続へのアプローチとして有効となる可能性がある、と述べています。
この研究の範囲
この結果を読むときに、押さえておくことが3つあります。
- 測っているのは「運動の継続」です。勉強や仕事、貯金といった他の行動に、そのまま当てはまるかどうかは、この研究からは言えません
- 横断調査です。ある時点で継続者と非継続者を比べたもので、「楽しいから続いた」のか「続いたから楽しくなった」のかは、この設計では分けられません
- 論文自身が「示唆された」という表現を使っています。断定ではありません
そのうえで、運動を続ける場合の着眼点としては「理由づけを増やす方向ではなく、やっている最中の感じ方のほうを見る」という読み方ができます。他の習慣に応用を試す場合も、この研究が示したこととしてではなく、試す価値のある方向として扱うのが適切です。
続いている人の割合
実際にどのくらいの人が続けているのかも見ておきます。厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査」では、運動習慣のある人は男性36.2%・女性28.6%でした。
この調査でいう「運動習慣のある者」の定義は、1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人です。年齢別では、男性の30歳代23.5%、女性の20歳代14.5%がもっとも低くなっています。
この10年でみると、男女とも有意な増減はありません。「続いている人は3割前後」という状態が続いているということです。続かないことが例外的ではない、という前提で組んだほうが現実的です。
続ける形の作り方
研究の示唆と、実行しやすさの両面から並べると次のようになります。
- やっている最中に、いやでないものを選ぶ(効果が高くても、毎回つらい方法は残りません)
- 単位を小さくする(30分が難しいなら10分にする。ゼロの日を作らないほうが優先です)
- すでにある習慣にくっつける(新しい時間を作らず、既存の行動の前後に置きます)
- やった日を記録する(評価をつけず、印をつけるだけ。増減が見えると判断材料になります)
- できなかった日を数えない(連続記録が切れた時点でやめる形にしない)
「楽しさ」は性格の問題ではなく、選び方の問題として扱えます。同じ運動でも、1人でやるか誰かとやるか、屋内か屋外か、音楽をかけるかどうかで感じ方は変わります。
目標の置き方
目標が高すぎると、達成できない日が続きます。低すぎると、やる意味を感じにくくなります。調整の仕方をいくつか挙げます。
- 結果ではなく行動で置く(「3キロ減らす」ではなく「週2回歩く」。行動なら自分で達成できます)
- 下限を決める(調子が悪い日でもこれだけはやる、という最低ラインを1つ)
- 期間を区切る(まず2週間、と決めておくと、合わなかったときに変えやすくなります)
- 増やす時期を決めておく(最初から完成形にせず、慣れてから足します)
結果で置いた目標は、自分の行動以外の要因にも左右されます。体重や成績は、努力と一対一で動くものではありません。行動で置いておくと、結果が出ない時期でも判断がぶれません。
先ほどの研究で「体力向上」「体型維持」といった結果に関する理由は、続いていない人も同じように挙げていました。理由として掲げることと、実際に続くことは別だという結果だと読めます。
記録の付け方
記録は、続けるための道具としても、判断の材料としても使えます。ただし細かくすると、記録すること自体が負担になります。
- 項目を2つまでにする(やったかどうか、と一言のメモ程度)
- 点数や評価をつけない(悪い評価が並ぶと、見るのが嫌になります)
- 見返す日を決める(毎日見ると変化が分からず、月に1回だと修正が遅れます。週1回程度)
記録が続かない場合は、記録をやめる判断もあります。本体が続いているなら、記録は必須ではありません。
やめる原因を先に潰す
続ける工夫を足すより、止まる要因を減らすほうが早いことがあります。
- 準備に手間がかかる(道具を出す、着替える、移動する。この段階で止まることが多い部分です)
- 時間帯が決まっていない(空いた時間にやる形だと、優先順位が下がります)
- 目標が高すぎる(達成できない日が続くと、記録を見るのが嫌になります)
- 他人と比べている(比較の対象が自分の過去でないと、続けるほど差が気になります)
1つ目は特に効きます。始めるまでの手数を1つ減らすほうが、意志の力を増やすより確実です。前日に道具を出しておく、着るものを決めておく、といった単位で構いません。
場所も要因になります。移動が必要な形だと、天候や予定の影響を受けます。家でできる選択肢を1つ持っておくと、外に出られない日に止まらずに済みます。量は減らしてよいので、ゼロにしない形を用意しておく、という考え方です。
途切れたときの扱い
何日か空くことは必ずあります。そのときにやめるかどうかが分かれ目になります。
- 空いた日数を数えない(「3日空いた」と数えるほど、再開の心理的な負担が上がります)
- 再開の日を決める(「明日から」ではなく、具体的な曜日と時間で)
- 再開の1回目は、いちばん軽い形にする(元の量に戻そうとすると、また止まります)
- 途切れた理由を記録する(忙しさ、体調、天候。繰り返す要因なら、先に対処できます)
完璧に続けることを目標にすると、1回途切れた時点で全部が終わります。途切れる前提で、戻る手順を先に決めておくほうが、長い目では残ります。
人を巻き込む場合
誰かと一緒にやる形は、機能する場合とそうでない場合があります。
- 相手の都合に合わせる形だと、相手が止まると自分も止まります
- 報告だけを共有する形なら、それぞれのペースで続けられます
- 競う形は、差がついた時点で片方が離脱しやすくなります
1人でできる形を基本にして、人と関わる部分は追加要素にしておくほうが崩れにくくなります。
周囲に宣言する方法も、向き不向きがあります。言ったことで動きやすくなる場合もあれば、できなかったときに報告しづらくなって、そのまま連絡を絶つ形になる場合もあります。一度試してみて、自分がどちらのタイプかを確かめるくらいの扱いで十分です。
他人の続け方をそのまま真似ても合わないことがあります。生活の時間帯も、使える時間の長さも違うためです。参考にするのは手順ではなく、その人がどこで止まらないようにしているかという工夫のほうです。
まとめ
- 「体に良いと分かっている」では差がつかない。労働者521名の調査で、継続者と非継続者の上位理由はほぼ同じだった
- 差が出たのは「楽しさ・高揚感」。ただし測っているのは運動の継続で、横断調査のため因果は示されていない
- 続いている人は3割前後。運動習慣のある人は男性36.2%・女性28.6%(1回30分以上・週2回以上・1年以上)
- 始めるまでの手数を減らす。意志の力を増やすより確実
- 途切れる前提で、戻る手順を先に決めておく
情報源:江口泰正・井上彰臣・太田雅規・大和浩「運動継続者に見られる継続理由の特色―労働者における運動継続への行動変容アプローチに関する研究」日本健康教育学会誌 27(3): 256-270(2019年)(労働者を対象とした質問紙による横断調査・有効分析521名)、厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」第3章
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