SNSやニュースサイトで「有名人が無料で投資指導します」「絶対に儲かる投資の秘訣を直接教えます」――そんな広告を見たことはありませんか?広告に映る顔も声も本人そっくりですが、その多くがAI技術で作られた偽物であることが、警察庁の公式情報で明らかになっています。被害は1日あたり約3.5億円。この記事では、警察庁の最新確定値をもとに、AI偽広告の見分け方と対策を詳しく解説します。
1. 「有名人の無料投資指導」広告に潜む罠
SNSをスクロールしていると、突然表示される「有名な実業家が投資の秘訣を教えます」という広告。本人の顔写真や動画が映っていて、思わず信じてしまいそうになります。
しかし、警察庁は公式に「著名人が無料で投資教室を開催したり、確実に利益が出る投資話を無料で教えたりすることは基本的にありません」と注意喚起しています。
こうした広告の多くは、本人の許可を得ずに顔写真や動画を勝手に使ったり、AI技術で本人そっくりの偽動画を作成したりしている可能性があります。実在する複数の有名人が、自身が関与していない広告に勝手に使われたとして公式に注意喚起しています。
SNS型投資詐欺の被害は過去最悪
警察庁が令和8年2月12日に発表した暫定値によると、令和7年(2025年)のSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は1,827億円に達し、過去最悪を記録しました。
令和6年(2024年)の確定値は10,237件、1,271.9億円。1日あたりに換算すると約3.5億円がSNS型投資詐欺で失われている計算になります。1件あたりの平均被害額は約1,000万円超と、特殊詐欺の他の手口を大きく上回ります。
被害者の年齢層と接触ツール
警察庁の統計では、SNS型投資詐欺の被害者の50代〜70代が全体の約67.4%を占めています。最初の接触ツールは:
- Instagram:約29.8%
- Facebook:約17.5%
- 投資サイト・LINE:約14.3%
SNSの広告から始まり、LINEのグループトークやチャットアプリに誘導されるパターンが多いのが特徴です。
2. AI技術を悪用した「なりすまし広告」の正体
近年急増しているのが、生成AI技術を悪用したディープフェイク広告です。本人の許可を得ずに、有名人の顔と声を勝手にAIで合成し、まるで本人が投資を勧めているかのような動画広告を作成します。
AI偽動画でできること
- 顔の合成:本人の写真や動画をもとに、新しい表情・口の動きを生成
- 声の合成:本人の音声サンプルから、好きなセリフを話させる
- 映像と音声の合成:口の動きと声を完全に同期
- 背景の合成:スタジオやテレビ番組風の背景を演出
これらは数分〜数時間で生成可能で、技術の進歩により肉眼での判別はますます難しくなっています。
被害を受けている主な有名人(注意喚起されているケース)
有名な実業家、経済評論家、テレビでよく見る著名人など、知名度の高い方々が次々となりすまし広告の被害に遭っており、本人や関係者が公式SNSで「自分は投資指導を一切行っていない」と注意喚起しています。
ある実業家のケースでは、なりすまし広告が188件確認され、関連する被害総額が約20億円に達したとも報告されています。
3. なりすまし投資詐欺の典型的な流れ
なりすまし投資詐欺は、おおよそ以下の5ステップで被害者を追い込みます。警察庁が公表している実際の事例をもとに整理しました。
ステップ1:SNS広告でなりすまし動画を表示
Instagram、Facebook、TikTokなどで、有名人が投資の話をする動画広告が表示されます。動画では本人が「私が直接投資の秘訣を教えます」「このノウハウで誰でも稼げます」と話しているように見えます。
広告をクリックすると、「LINEに友だち追加してください」「無料セミナーに参加」と書かれたページに誘導されます。
ステップ2:LINEで「アシスタント」を名乗る相手とやり取り
LINEに登録すると、有名人本人ではなく「アシスタント」「秘書」「サポートチーム」を名乗る相手からメッセージが届きます。「先生は忙しいので、私が代わりに案内します」と説明されるのが定番のパターンです。
警察庁の事例では「有名な評論家ならアシスタントが対応するのは当然」と被害者が信じてしまうケースが多く報告されています。
ステップ3:LINEの投資グループに誘導
個別のやり取りで信頼関係を作ったところで、「先生が指導しているグループがあります」とLINEのグループトークに招待されます。グループには10人〜100人ほどのメンバーがいて、「先生のおかげで儲かりました」と利益報告が活発に行われています。
ただし、警察庁の事例では「投資グループ(サクラ多数)に加入した」と表現されており、参加者の多くが犯人グループの仲間である可能性があります。
「勝手にLINEグループに追加されるパターン」や「グループ内のサクラの見抜き方」については、 勝手に追加されたLINE投資グループは要注意!「儲かった」の声はサクラの可能性 で詳しく解説しています。
ステップ4:少額の投資で「成功体験」を演出
最初は10万円〜30万円程度の少額投資を勧められます。指定された口座に振り込むと、少額の利益が実際に振り込まれて戻ってくることがあります。これは犯人グループの「撒き餌(まきえ)」で、被害者を信じ込ませるための演出です。
ステップ5:高額投資の後、出金時に手数料・税金を要求
「もっと儲けるためには追加投資が必要」「VIPプランで利益が倍増」と高額投資を促され、被害者は数百万円〜数千万円を振り込みます。
そして利益を出金しようとした瞬間、最後の手口が始まります。
- 「出金には20%の税金が必要です」
- 「手数料を先に支払ってください」
- 「本人確認のために保証金が必要です」
これらを支払っても出金できず、最終的には連絡が取れなくなります。
4. なりすまし投資詐欺の見分け方:6つのチェックポイント
なりすまし投資詐欺を見抜くために、以下の6つを確認しましょう。一つでも当てはまれば、詐欺の可能性が高いケースとして考えてください。
チェック1:有名人がSNSで「無料投資指導」を行っている
警察庁が公式に「著名人が無料で投資教室を開催したり、確実に利益が出る投資話を無料で教えたりすることは基本的にありません」と注意喚起しています。「無料」「直接指導」を強調する広告は警戒が必要です。
チェック2:「絶対に儲かる」「必ず利益が出る」と断言している
本物の投資には必ずリスクがあります。「絶対に儲かる」と断言する投資話は、金融商品取引法で禁止されている表現です。
チェック3:有名人本人ではなく「アシスタント」が対応する
有名人が個人にDMで投資指導することはありません。「アシスタント・秘書が代わりに案内」というパターンは、なりすまし投資詐欺の典型的な手口です。
チェック4:振込先が個人名義の口座
警察庁の公式情報では「投資資金の振込先に個人名義の口座を指定された場合は詐欺」と明記されています。さらに振込のたびに口座が変わる場合は、詐欺の可能性が極めて高い状況です。
チェック5:金融庁に登録されていない業者
日本国内で金融商品取引業を行うには、金融庁への登録が必要です。金融庁の「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」で、勧められた業者の名前を検索しましょう。登録されていない業者は無登録営業の可能性があります。
チェック6:出金時に「手数料」「税金」を先払いで要求される
本物の投資取引で、出金前に税金を別途振り込ませる仕組みはありません。税金は確定申告で後から支払うのが日本の制度です。「先払い」を要求された時点で、強い警戒が必要です。
5. やってはいけない4つの行動
なりすまし投資詐欺の被害を防ぐために、やってはいけないこと
① SNS広告から「有名人の投資LINE」に登録する
② 「アシスタント」を名乗る人物の指示で口座に振り込む
③ 「絶対に儲かる」「VIPプラン」という言葉に乗る
④ 出金時に「手数料」「税金」を先払いする
特に重要なのは、最初の「広告をクリックしない」という1点です。SNSのなりすまし広告から始まる被害は、そもそもクリックしなければ発生しません。有名人がSNS広告で個人に投資を教えることはないと覚えておくのが、最大の防御です。
6. 正しい対処法
SNSで投資の話を見かけたり、すでにLINEのやり取りを始めてしまった場合の正しい対処法を、順を追って紹介します。
対処1:広告はクリックしない・LINEには登録しない
SNSで有名人の投資広告を見かけても、そもそもクリックしないのが最も安全です。「無料」「期間限定」「特別公開」と書かれていても、クリックする必要はありません。
対処2:すでに登録してしまったら、ブロックして退会
LINEに登録してしまった場合は、相手をブロックしてグループからも退会しましょう。退会前にメッセージを読んでいると、サクラの「儲かった」報告に引き込まれてしまうので、内容を読まずに退会するのが安全です。
対処3:有名人本人の公式SNSで確認
気になる広告を見かけたら、その有名人本人の公式SNSアカウント(認証マーク付き)を確認しましょう。多くの有名人が「私はSNSで投資指導を行っていません」と注意喚起しています。
対処4:金融庁の登録業者一覧で確認
勧められた業者名を、金融庁の「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」で検索しましょう。登録されていない業者は、無登録での金融商品取引を行っている可能性があります。
対処5:家族や信頼できる人に相談
「みんなが儲かっている」「自分だけ取り残されている」と感じたときこそ、立ち止まる必要があります。家族や信頼できる友人に、広告のスクリーンショットを見せて意見を聞きましょう。第三者の冷静な視点が、被害を防ぐきっかけになります。
7. 家族と一緒に守るために
なりすまし投資詐欺は、50代〜70代の中高年層が約67.4%を占めますが、20代〜40代も狙われる可能性があります。SNSを使うすべての世代が、知っておくべき手口です。
家族と共有したい3つのこと
- SNSの「有名人の投資広告」は、まずクリックしない
- 「有名人が個人にDMで投資を教える」ことはないと覚える
- 気になる広告を見たら、家族のグループLINEで共有して相談する
事前にできる予防策
家族で次のような予防策を相談しておくと、いざという時に冷静に行動しやすくなります。
- SNSの設定で「フォロー外からのDMを制限」する
- 家族の中で「投資の話は1人で決めない」ルールを作る
- 怪しいと感じたら、家族のグループLINEに相談する習慣をつける
- 金融庁の「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」をブックマークしておく
8. もし被害に遭ってしまったら
すでに振り込んでしまった場合は、すぐに次の対応をしてください。1分でも早い対応が、被害金の取り戻しにつながる可能性があります。
対応1:すぐに振込先の銀行と自分の銀行に連絡
送金した直後であれば、銀行が取引停止や口座凍結などの対応をしてくれる場合があります。まずは送金した銀行の窓口やコールセンターに電話し、「詐欺で送金してしまった」と伝えてください。
対応2:警察相談専用電話「#9110」または110番に電話
- すでに送金してしまった場合は110番(警察)にかけて被害届を出す準備をしましょう
- 事件として扱うべきか迷う段階では「#9110」(警察相談専用電話)に電話
- 受付時間:平日午前8時30分〜午後5時15分(地域により異なる)
対応3:消費者ホットライン「188」も活用
金銭トラブルや消費者問題の観点からは、消費者ホットライン「188」(いやや)に相談できます。最寄りの消費生活センターにつながり、専門の相談員がアドバイスしてくれます。
対応4:振り込め詐欺救済法による被害回復
振り込め詐欺救済法という法律に基づき、犯人の口座が凍結された場合、被害金が一部または全額返還される制度があります。預金保険機構や金融機関に確認してください。
対応5:証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)
投資関連の被害は、特定非営利活動法人「証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)」でも相談を受け付けています。中立的な立場でアドバイスしてくれます。
まとめ:覚えておきたい3つのポイント
- SNSの「有名人の無料投資指導」広告は、AI技術を悪用したなりすまし詐欺の典型手口
- 有名人が個人にDMで投資を教えることは基本的になく、「アシスタントが対応」と言われたら詐欺の可能性が高い
- そもそもSNSの投資広告はクリックしないことが、最も確実な対策
SNS型投資詐欺は、「有名人なら信用できる」という心理を巧みに利用する手口です。AI技術が進化した今、本人と区別がつかないほど精巧な偽広告が作られています。仕組みを知っているかどうかで、防げるかどうかが大きく変わります。
この記事を家族のLINEに送って、SNSをよく使うご家族にも読んでもらってください。たった5分の確認が、何百万円もの被害を未然に防ぐきっかけになります。
情報源:警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」(令和7年5月23日発表確定値)、警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」(令和8年2月12日発表暫定値)、警察庁・SOS47特殊詐欺対策ページ「SNS型投資詐欺」、警察庁「令和7年10月末における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」、金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」、政府広報オンライン「それSNSの投資詐欺やロマンス詐欺かも!」、警察相談専用電話「#9110」、消費者ホットライン「188」、特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)、振り込め詐欺救済法、預金保険機構
コメントを残す