妻が実家に頻繁に帰る、実家の意向が優先される。こうした状態が続くと、家庭の中で孤立したように感じることがあります。内閣府の調査では、配偶者がいる人でも2.4%が孤独感を「しばしばある・常にある」と答え、同居人がいる場合でも3.4%でした。この記事では、何が負担になっているのかの整理、伝え方、距離の決め方をまとめます。
「実家依存症」は診断名ではない
最初に押さえておきたいのは、「実家依存症」は医学的な診断名ではないということです。この記事では、結婚後も実家との関わりが強く、それが夫婦間の悩みになっている状態を便宜上「実家依存」と表現します。
病名として扱うと、「治療が必要だ」という方向に話が向かい、かみ合わなくなります。扱うべきは、実際に何が起きていて、何が負担なのかという具体的な中身です。連絡の頻度、育児や家事への関わり方、夫婦での決め方、時間の配分といった、観察できる行動に分けていくほうが進みます。
何が負担になっているかを分ける
「実家に行きすぎる」とまとめると、話し合いの材料になりません。先に分けてみてください。
- 時間の問題(帰省の頻度や滞在日数。こちらの予定が組めない)
- お金の問題(交通費、実家への支出、家計への影響)
- 決め方の問題(夫婦で決める前に実家の意向が入る。相談なく決まる)
- 子どもに関すること(教育方針、しつけ、行事の優先順位)
- 自分の立場(家庭の中で意見が通らない、相談されない)
このうち3つ目と5つ目は、頻度を減らしても解決しません。決め方の問題なので、別に話す必要があります。逆に1つ目だけであれば、回数や日数の調整で済むこともあります。
同居していても孤独感はなくならない
内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)」(2025年12月1日現在・有効回答11,873人)では、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人の割合に、次の差が出ています。
| 区分 | いる | いない |
|---|---|---|
| 配偶者(有配偶/未婚) | 2.4% | 9.0% |
| 同居している人 | 3.4% | 9.8% |
| 気軽に話せる相手 | 2.5% | 25.0% |
配偶者がいる人の割合は全体(4.5%)より低くなっていますが、ゼロではありません。そして差がもっとも大きいのは、配偶者の有無ではなく「気軽に話せる相手がいるか」でした。
この調査は夫婦関係を聞いたものではないので、ここから因果は読み取れません。ただ、家庭内に話せる関係があるかどうかを確認する材料にはなります。男性は50歳代で7.6%と、男女・年齢別では最も高くなっています。
伝えるときの形
厚生労働省の「こころの耳」は、相手の気持ちや考えを尊重しながらも、自分の気持ちや考えをその場に適した表現で伝えるコミュニケーション方法を「アサーション」と呼んでいます。我慢して言わないのも、強く言って押し切るのも、この形からは外れます。
実家の話は、相手にとって家族の話でもあります。伝え方で結果が変わります。
- 実家や義両親を否定する形にしない(人の評価を言うと、そこだけが論点になります)
- 起きている事実と、自分がどうだったかを言う(「今月3回あって、予定が立てられなかった」)
- してほしいことを具体的に言う(「行く前に相談してほしい」「月の回数を決めたい」)
- その日に全部を解決しようとしない(項目を1つに絞って話すほうが進みます)
「実家依存」という言葉自体を使わないほうが、話は前に進みます。レッテルとして受け取られると、内容ではなく言い方が論点になります。
相手の事情を先に聞く
頻繁に実家へ行く理由が、こちらの想像と違うことがあります。
- 育児の手が足りず、頼れる先が実家しかない
- 親の体調や介護の事情がある
- 家にいると孤立感があり、話し相手を求めている
- 単に習慣として続いている
理由によって、打つ手がまったく変わります。育児の負担が理由なら、頻度を減らす話をする前に、分担の話が必要です。先に聞いておかないと、こちらの都合だけを通す形になります。
聞くときは、問い詰める形にしないことです。「なんでそんなに行くの」ではなく「何かあるの?」のほうが、相手は説明しやすくなります。理由を聞く場面と、こちらの希望を伝える場面は、分けたほうが両方とも伝わります。
家事・育児の分担を数字で見る
総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」によると、6歳未満の子どもがいる夫婦の家事関連時間(家事・育児・介護・買い物の合計)は、夫が1日1時間54分、妻が7時間28分でした(週全体・2021年)。夫の1時間54分のうち、家事は30分、育児は1時間5分です。
夫の時間は2001年の48分から増えていますが、妻は20年で13分しか減っていません。妻の育児時間は同じ期間に3時間3分から3時間54分へ増えています。
実家に頼る形になっている背景に、この時間配分がある場合があります。分担を見直さずに頻度だけ減らすと、負担がそのまま残ります。
この調査は夫婦の時間配分を調べたもので、実家との関係を聞いたものではありません。ただ、自分の家庭がこの平均と比べてどうかは、記録すれば確認できます。1週間、家事と育児にかかった時間をお互いに書き出してみると、感覚で話すより具体的になります。
子どもが関わる場合
子どもの教育やしつけに実家の意向が入る場合、話は複雑になります。
- 夫婦でどうするかを先に決める(決まっていないと、どちらの実家の意向も入りやすくなります)
- 伝える役割を決める(それぞれが自分の実家に伝える形にすると、角が立ちにくくなります)
- 譲れない点だけに絞る(全部を統一しようとすると、祖父母との関係まで壊れます)
- 子どもの前で言い争わない(どちらにつくかを選ばせる形になります)
祖父母と過ごす時間そのものは、子どもにとって不利益とは限りません。問題にすべきは、頻度ではなく、決定の順序が逆になっていないかという部分です。
よくある行き違い
話し合いがうまくいかない場合、次のような形になっていることがあります。
- こちらの不満を、実家への批判として伝えている(相手は家族を守る側に回ります)
- 過去の回数を持ち出している(「先月も、その前も」と数え始めると、事実確認から始まります)
- 相手の親の性格を論点にしている(変えられないものを扱うことになります)
- 第三者を引き合いに出している(「普通はこうだ」「他の家庭では」は、比較の話になります)
いずれも、こちらの要望が伝わる前に、守りの姿勢を作ってしまう形です。伝えたいことがあるなら、起きている事実と、してほしいことの2つに絞ってください。
距離の決め方
話し合って決めるとき、具体的な形にしておくと守りやすくなります。
- 回数ではなく、予定の立て方を決める(「行く前に共有する」なら、回数を制限しなくても予定が組めます)
- 決めるのは夫婦で、という順番を確認する(実家に相談してから夫婦で話す形になっていないか)
- こちらの実家との扱いもそろえる(片方だけ制限する形にすると、不公平の話になります)
- 決めたことは一度試してから見直す(最初から完璧な配分にしようとすると、話がまとまりません)
禁止の形にすると、守られなかったときに新しい問題が生まれます。「行かないで」ではなく「行く前に共有してほしい」のように、相手が実行できる形にしておくほうが機能します。
距離が近いこと自体が問題とは限りません。実家が近く、頼れる関係があることは、育児の面では助かる場面もあります。こちらが困っているのがどの部分なのかを特定しないまま「距離を取るべきだ」と進めると、相手には理由が分かりません。
自分の側で整えること
相手が変わるのを待つ間も、自分の状態は整えられます。
- 話せる相手を家庭の外にも持つ(調査で差が大きかったのは、話せる相手の有無でした)
- 1人の時間の使い方を決めておく(妻が不在の時間を、待つ時間にしない)
- 睡眠と食事を削らない(体調が落ちていると、同じ出来事でも反応が強く出ます)
厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査」では、仕事や職業生活のストレスについて相談できる人がいる労働者は94.6%でしたが、実際に相談したことがある人は74.7%でした。相手がいることと、実際に話すことは別だという数字です。
状態が続くときは
厚生労働省は、気分の落ち込みや睡眠の問題などの症状が2週間以上続く場合には「うつ」が疑われるとして、専門家(精神科、心療内科)に早めに相談することをすすめています。
夫婦間の話し合いが進まない場合は、自治体の家庭相談窓口や、家庭裁判所の夫婦関係調整調停という制度もあります。離婚を前提としない話し合いの場としても使えます。
まとめ
- 「実家依存症」は診断名ではない。病気として扱うと話がかみ合わない
- 負担の中身を分ける。決め方の問題は、頻度を減らしても解決しない
- 配偶者がいても孤独感はゼロにならない(2.4%)。差が大きいのは話せる相手の有無(2.5%と25.0%)
- 理由を先に聞く。育児の負担が理由なら、分担の話が先になる
- 決めるのは回数より、予定の立て方。こちらの実家との扱いもそろえる
情報源:内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)調査結果のポイント」(調査期日2025年12月1日・有効回答11,873人)、総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」結果の要約表2、厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」個人調査、厚生労働省「こころの耳」用語解説「アサーション」
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