「息子の声だった」「本物の警察官に見えた」。声も顔も、いまは本物そっくりに作れます。気づけないのは、注意力の問題ではありません。だから見破ろうとせず、確かめ方を変えます。怪しいと思ったら一度切って、自分が知っている番号にかけ直す。これだけで、被害に遭うリスクを下げられます。警察庁も「警察官や検察官が、個人のスマートフォンに突然ビデオ通話をかけることはありません」と明言しています。
まず、この4つだけ覚えてください
むずかしいことは要りません。次の4つを習慣にしておけば、AIで作られたものかどうかを見分けられなくても、被害を防ぐうえで有効です。
かかってきた番号ではなく、自分が知っている番号にかけ直す
まず、これです。
警察・銀行・役所・会社。どこを名乗る相手でも、いったん電話を切ってください。そのうえで、着信履歴からではなく、自分で調べた番号にかけ直します。公式サイトに載っている番号、通帳やカードの裏に書かれた番号、以前から知っている家族の番号です。
警察署の番号が分からないときは、お住まいの都道府県警察の公式サイトで調べてください。検索結果の広告欄ではなく、公式サイトの一覧から確かめます。
相手が本物なら、かけ直しても話は通じます。「切らないでください」「この番号にかけ直してください」と言う相手は、そこで正体が分かります。
家族で合言葉を決めておく
声がまねられる以上、声で本人確認はできません。声ではなく、知識で確かめます。
あらかじめ家族で合言葉を決めておき、緊急のお金の話が出たら必ず聞く、と決めておいてください。「うちの一番古い車の色は」「小学校の担任の名前は」でも構いません。SNSに書いていないことを選ぶのがコツです。
その場で決めない。時間を置く
詐欺はどれも急がせます。「今日中に」「今すぐ手続きしないと逮捕される」。急がせるのは、考える時間と、誰かに相談する時間を与えないためです。
急がせてくる相手は、それだけで疑ってよいと考えてください。役所や警察が、電話一本でその場の送金や手続きを求めることはありません。還付金をATMで受け取れる制度も存在しません。
お金の話は、必ず別の経路で確認する
振り込み、電子マネー、キャッシュカードの受け渡し、暗号資産。お金が動く話が出たら、その通話の中では絶対に決めないでください。
電話で言われたなら、電話ではない方法で確かめます。家族に直接会う、勤め先に自分でかける、銀行の窓口に行く。同じ経路で確認しても意味がありません。その経路ごと、相手が用意したものかもしれないからです。
AIを使った詐欺で、いま起きていること
手口は大きく4つに分かれます。どれも「本物らしさ」を作るためにAIが使われています。
家族や知人の声をまねる
短い音声があれば、その人の声に似せた音声を作れるようになりました。SNSに上げた動画や、留守番電話の応答メッセージでも足ります。
「事故を起こした」「会社のお金をなくした」と、泣きそうな声で電話がかかってきます。以前のオレオレ詐欺は「風邪をひいて声が変わった」という言い訳が必要でしたが、いまはその言い訳が要りません。
顔を変えて、ビデオ通話をかけてくる
警察庁は、ビデオ通話を悪用した偽の警察官・検察官による詐欺に注意するよう呼びかけています。制服らしきものを着た人物が画面に映り、身分証らしきものを見せてきます。
電話番号の偽装と組み合わされることも多く、着信画面に本物の警察署の番号が出ることもあります。この手口については【2026年最新】スマホに警察署から着信は詐欺!末尾0110の偽装手口でくわしく書いています。
日本語が自然な詐欺メール・偽サイト
以前の詐欺メールは、日本語が不自然でした。「お客様のアカウントは停止されました」の一文がおかしくて気づけた、という方も多いはずです。
その手がかりは、もう使えません。いまの詐欺メールは、企業の案内文と見分けがつかない日本語で届きます。偽サイトの作りも同じで、ロゴも配色も本物をそのまま写しています。フィッシング対策協議会も「フィッシングサイトは見破れません!」という見出しで、「フィッシングメールは、正規のメールを複製したり、AIで自然な日本語を生成したりして、本物と見分けがつきません」と書いています。同協議会がすすめているのは、見破ることではなく「いつもの公式アプリ、いつもの公式サイト(ブックマーク)から開く」習慣です。
有名人の顔と声を使った偽広告
著名な経営者や芸能人が「この投資で儲かった」と語る動画広告が、SNSに流れてきます。本人はそんなことを言っていません。顔と声を合成したものです。
国民生活センターも、著名人を名乗る勧誘による金融商品のトラブルが急増しているとして、いったん振り込むと被害の回復が難しいことを公表しています。投資に誘う手口については有名人の「無料で投資指導」広告は要注意|なりすまし投資詐欺の手口と見分け方にまとめています。
なぜ「見て、聞いて」見破るのが難しくなったのか
これまでの詐欺対策は、おかしなところを探す方法でした。声が違う、日本語が変、ロゴがぼやけている。そういう不自然なところを見つけて気づく形です。
AIが作るものには、その不自然さがほとんどありません。しかも作るのに手間もお金もかからないので、数を打てます。
もう一つ困るのが、相手が「あなた向けに」作れることです。SNSに家族写真や職場の情報を出していれば、それを踏まえた話をしてきます。「先週、〇〇に行っていましたよね」と言われると、本物だと思ってしまいます。
「まばたきが不自然」「口の動きが合わない」「声の間がおかしい」。少し前まで言われていた見分け方は、いまのものにはほとんど当てはまりません。判定してくれるアプリも出ていますが、作る側の技術も同じ速さで進むので、当てにするものではありません。
ですから、見破ろうとしても、うまくいきません。本物かどうかを、相手が用意した通話やメールの中で判断しない。これが基本になります。最初に挙げた4つは、そのための具体策です。
警察・検察を名乗るビデオ通話は、これで判断できる
警察官や検察官を名乗るビデオ通話が増えています。警察庁は2025年4月に注意喚起を出し、はっきりとこう書いています。
警察官や検察官が、個人のスマートフォンに突然ビデオ通話をかけることはありません!!
出典:警察庁「ビデオ通話を悪用した“偽警察官・検察官”の詐欺に注意!!」
ここが決め手になります。制服を着ていても、身分証らしきものを見せてきても関係ありません。個人のスマートフォンに突然ビデオ通話がかかってきた時点で、本物ではありません。
警察庁は、犯人が使う言葉の例も挙げています。
- あなたの口座が犯罪に悪用されている
- スマホがもうすぐ使えなくなる
- あなたに逮捕状が出ている(別途、令状のようなものが送られてきます)
どれも、聞いた人が慌てる言葉です。慌てさせて、確認する時間を与えないのが目的です。
身分証を画面に映されても信用しないでください。画像は作れますし、映っているものを手に取って確かめることはできません。不審な電話やビデオ通話を受けたら、一度切って、最寄りの警察署に相談してください。
場面別:相手ごとの確かめ方一覧
よくある場面での、確かめ方をまとめます。
| 場面 | 相手が言うこと | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 家族からの緊急の電話 | 事故・借金・会社のお金 | いったん切って、自分が知っている番号にかけ直す。合言葉を聞く |
| 警察・検察を名乗る通話 | あなたの口座が犯罪に使われている | 切って、最寄りの警察署の代表番号に自分でかける。ビデオ通話には応じない |
| 銀行・カード会社からの連絡 | 不正利用があった。暗証番号を確認したい | 切って、カード裏面の番号にかける。暗証番号は誰にも言わない |
| 役所からの還付の連絡 | 還付金があるのでATMへ | ATMで還付金は受け取れない。その時点で詐欺 |
| SNSの投資広告 | 有名人が勧めている | その人の公式サイトやアカウントで確認する。広告からは登録しない |
| 企業からのメール | アカウントが停止された | メール内のリンクを踏まず、アプリや公式サイトから自分でログインして確かめる |
自分でできる備え:材料を減らしておく
声も顔も、材料があるから作れます。ここでいう材料とは、SNSに上げた写真や動画、留守番電話に残した自分の声のことです。材料を減らしておくことが、そのまま予防になります。
- SNSの公開範囲を見直す:家族の顔が写った写真、声が入った動画、勤め先や家族構成が分かる投稿。公開範囲を「友達まで」に絞るだけでも違います
- 留守番電話の応答メッセージで名乗らない:自分の声で「〇〇です」と録音していると、それが材料になります。最初から入っている機械の音声で構いません
- 知らない番号には出ない:固定電話を常時留守番電話にしておくのが確実です。用がある相手は必ず用件を残します
- 迷惑電話の防止機能を使う:通信会社や自治体が用意している場合があります。契約先に一度聞いてみてください
- 家族の連絡先を紙に控えておく:スマホが手元にないときでも、自分でかけ直せる状態にしておきます
とくに留守番電話のメッセージは見落とされがちです。誰でも聞ける場所に、自分の声を置いたままにしないでください。
家族で決めておく約束
実際に電話がかかってきてから考えるのでは間に合いません。落ち着いているうちに、次のことを家族で話しておいてください。
- 「かけ直す」を家族の約束にする:切られても怒らない、と全員で決めておくと、本人が切りやすくなります
- お金の相談は必ず誰かに話す:一人で決めない、を約束にしておく
- 離れて暮らす親の連絡先を整理しておく:いざというとき、すぐかけ直せる状態にしておく
とくに「電話を切っていい」と家族が言っておくことが効きます。相手が本物だったら失礼になる、と思って切れない方が多いためです。本物なら、かけ直せば済みます。
離れて暮らしているときは
その場に駆けつけられない前提で、先に手を打っておきます。
- 金融機関の窓口に事情を伝えておく:高齢の家族の口座について、大きな出金や振込のときに声をかけてもらえないか、取引店に相談しておきます
- 1日の振込・引き出しの限度額を下げておく:窓口で申請できます。金額が小さいほど、被害も小さく止まります
- 地域包括支援センターを知っておく:家族以外に様子を見てもらえる相談先です。市町村の窓口で場所が分かります
- 通話録音装置の貸し出しを自治体に聞く:用意している市町村があります。着信時に警告が流れるだけでも抑止になります
ビデオ通話で顔を見ても、本人確認にはなりません。離れているときこそ、この記事の最初に書いた「かけ直す」を家族全員の習慣にしておいてください。
本人が信じ込んでいるとき、どう止めるか
いちばん難しいのがここです。家族が「それは詐欺だ」と言っても、本人が聞き入れないことがあります。犯人は「家族にも話すな」「話すと家族も逮捕される」と言い含めているためです。
頭ごなしに否定すると、かえって心を閉ざしてしまいます。次のように持っていくほうが通りやすくなります。
- 「うそだ」ではなく「一緒に確かめよう」と言う:本人を否定せず、確認作業に付き合う形にします
- その場で一緒にかけ直す:自分で調べた警察署や銀行の番号に、本人の目の前でかけます
- #9110に一緒に相談する:第三者から聞くほうが、家族の言葉より届くことがあります
- お金を動かす前に一晩置かせる:結論を先延ばしにするだけでも、被害を防げることがあります
本人は、だまされていると思っていません。助けようとしている、あるいは自分を守ろうとしているつもりでいます。そこを踏まえて話すほうが、結果的に早く止まります。
AIが作った情報そのものにも気をつける
詐欺の電話やメールだけではありません。検索やSNSで目にする情報にも、AIが作ったものが混ざるようになりました。
ニュース風の記事、体験談、口コミ。人が書いたように見えても、中身が事実に基づいていないことがあります。同じ話ばかり出てくるときほど、いったん立ち止まってください。そのしくみについてはエコーチェンバー現象とは?AIが作る情報の偏りと対策で書いています。
お金や健康に関わる話は、公的機関のサイトや、その企業の公式サイトで確かめる。ここを習慣にしておくと、だまされにくくなります。
それでもお金を払ってしまったら
気づいた時点で、すぐ動いてください。時間が経つほど、取り戻せる可能性は下がります。
金融庁は「振り込め詐欺等の被害にあってしまった場合は、警察と振込先の金融機関に連絡してください」と案内しています。順番に見ていきます。
- 振込先の金融機関に連絡する。お金を送った先の口座がある銀行です。振り込め詐欺救済法にもとづく口座の凍結と、被害回復分配金の申請窓口は、ここになります。名前と連絡先を伝えてください。手続きには、申請書・本人確認書類・振り込んだ事実が分かる資料が要ります。銀行名は振込の明細で確かめられます
- 警察に届け出る。最寄りの警察署に連絡してください。緊急でない相談は #9110 も利用できます。振込の明細、相手の電話番号、やり取りの記録があれば残しておきます
- キャッシュカードを渡してしまったなら、自分の取引銀行にすぐ連絡して口座を止める。これがいちばん急ぎます
- クレジットカードなら、カード会社に連絡して利用を止める
- 電子マネーなら、カード現物とレシートを捨てずに、発行会社と警察に連絡する
- 暗号資産で払ってしまった場合は、使った交換業者に連絡する。あわせて警察にも届け出てください
なお、振り込め詐欺救済法で戻る可能性があるのは、銀行振込で払った場合です。電子マネーや暗号資産は対象外なので、発行会社や交換業者と警察への連絡が中心になります。
振り込んでしまった場合の手続きは振り込め詐欺の被害金は戻る?振り込め詐欺救済法の手順と注意点にまとめています。
だまされたことを恥ずかしがって、黙ってしまうのがいちばんよくありません。相手はそれを見込んでいます。
不安なときの相談先
- 警察相談専用電話 #9110:犯罪かどうか判断が付かない段階の相談。緊急時は110番
- 消費者ホットライン 188:契約・請求のトラブル。最寄りの消費生活センターにつながる
「これは詐欺だろうか」という段階で構いません。迷ったら、決める前にかけてください。
まとめ:覚えておきたい3つのポイント
- 声も顔も、もう本人確認には使えない:見破ろうとせず、確かめ方を変える
- いったん切って、自分が知っている番号にかけ直す:安全を確認する、基本的な方法です
- 急がせてくる相手は、それだけで疑ってよい:お金の話は、その通話の中で決めない
情報源:警察庁「ビデオ通話を悪用した“偽警察官・検察官”の詐欺に注意!!」(2025年4月28日)、金融庁「振り込め詐欺等の被害にあわれた方へ」、全国銀行協会「振り込め詐欺救済法とは」、国民生活センター「SNSをきっかけとして、著名人を名乗る…消費者トラブルが急増」、フィッシング対策協議会「フィッシングとは」、警察相談専用電話「#9110」、消費者ホットライン「188」