手すりや段差の工事に介護保険を使うときは、工事を始める前に申請が必要です。申請の前に工事をすると、保険が使えないことがあります。保険の計算のもとになる上限は20万円で、20万円がもらえるわけではありません。1割負担の人なら、支給は18万円までです。工事を考え始めたら、契約の前に、担当のケアマネジャーか地域包括支援センターに相談してください。この記事では、対象の工事、費用の計算、申請の手順をまとめます。
工事の前に申請する
介護保険法施行規則の第75条第1項は、住宅改修を行おうとするときは、あらかじめ申請書などを出し、工事が終わったあとに領収書などの書類を出すと定めています。申請と書類の提出は、工事の前と後の2回あります。使えるのは、要支援または要介護の認定を受けて自宅で暮らしている人です(介護保険法第45条・第57条)。
工事の前に出すのは、市区町村がその工事が保険の対象として適当かを確かめるためです。国の通知(老企第42号)は、市区町村が確認の結果を事前に伝えるとしています。ただし、この確認が出ても、支給が決まったわけではありません。支給は工事のあとの書類を見て決まります。鎌倉市も、着工の承認は支給を決定するものではないと案内しています。
「やむを得ない事情がある場合」は、工事が終わったあとに申請書を出すこともできます(施行規則第75条第2項)。国の通知(老企第42号)は例として、入院や入所をしている人を退院後や退所後に自宅で受け入れるために、あらかじめ工事を始める必要がある場合を挙げています。工事のあとで申請すれば必ず使える、という意味ではありません。当てはまるかどうかは、工事の前に市区町村に確かめます。
対象になる工事
対象は、厚生労働省の告示(平成11年厚生省告示第95号)で決まっています。
- 手すりの取付け
- 段差の解消
- 滑りにくい床材への変更など、床や通路の材料の変更
- 引き戸などへの扉の取替え
- 洋式便器などへの便器の取替え
- これらに付帯して必要な工事(たとえば、手すりのための壁の下地の補強、便器の取替えに伴う給排水の工事。水洗化や簡易水洗化の工事は除く。鎌倉市の手引き)
対象にならない例もあります。
- 新築 ― 住宅改修とは認められません(老企第42号)。増築も、新しく部屋を作るような場合は対象外です
- 住民票の住所とは別の家の工事 ― 一時的にそこで暮らしていても、たとえば練馬区は対象外と案内しています
- 単なる老朽化や破損の修理 ― 練馬区は対象にならないと案内しています
対象の工事と、そうでない工事を一緒に行うときは、対象の部分を分けて計算します。見積もりは分けて書いてもらってください。
20万円の意味
国の通知は、支給限度基準額を20万円としています。要支援、要介護の区分にかかわらず同じ額です。ここが誤解されやすいところで、20万円は受け取れる額ではなく、支給額を計算するもとになる上限です。20万円を超える工事が禁止されているわけではなく、超えた部分は自己負担になります。
支給の上限は、負担割合によって次のようになります。
| 負担割合 | 支給の上限 | 25万円の工事の自己負担 |
|---|---|---|
| 1割 | 18万円 | 7万円 |
| 2割 | 16万円 | 9万円 |
| 3割 | 14万円 | 11万円 |
25万円の工事がすべて対象の工事だった場合の計算です。1割負担なら、20万円のうちの1割の2万円と、超えた5万円を合わせた7万円が自己負担です。
市町村は、条例でこの上限を上げることができます(介護保険法第45条第6項)。別に独自の助成を設けているところもあります(たとえば練馬区の高齢者自立支援住宅改修給付)。窓口で聞いてみてください。
住宅改修の20万円の枠は、毎月の介護保険の限度額とは別です(西宮市の案内)。
申請から支給までの流れ
- 相談する ― 担当のケアマネジャーか地域包括支援センターに、困っている動作を伝えます
- 工事の内容と見積もりを決める ― 住宅改修が必要な理由を書いた「理由書」が要ります。多摩市は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターの職員に書いてもらうと案内しています。国の通知によると、担当のケアマネジャーなどが書く場合に別の費用はかかりません。工事の内容や金額を比べられるよう、できれば複数の業者から見積もりを取ってください
- 市区町村に事前に申請する ― 申請書、理由書、見積もり、工事前の状況が分かるものなどを出します。持ち主が本人でないときは承諾の書類も要ります。必要な書類と、家族が代わりに出せるかは、市区町村の窓口で確かめます
- 市区町村の確認のあとで工事する
- 工事費を払い、完成後の書類を出す ― 領収書、工事の内訳、完成後の写真などです
- 市区町村が支給を決定する
支払いの方法は、厚生労働省の資料では、工事のあとで保険の分が戻る形(償還払い)で、いったん全額を払います。市区町村によっては、最初から自己負担分だけを払う「受領委任払い」もあります。鎌倉市は、受領委任払いを登録事業者に限っています。使えるかどうかは、窓口で聞いてください。
認定の申請中でも申請できる市区町村があります。ただし鎌倉市は、認定結果が非該当になった場合の工事は全額自費になると案内しています。入院中に工事を考えているときは、工事の前に窓口に確かめてください。たとえば練馬区は、入院中は原則として申請できないものの、退院後の生活に備える理由があれば事前の申請はでき、工事後の申請は自宅に戻ってからで、退院できなかったときは支給できないと案内しています。退院までの進め方は入院中でも要介護認定を申請できる?で説明しています。
家の持ち主が本人でないとき(子ども名義、賃貸など)
住宅の所有者が本人でないときは、所有者が工事を承諾したことが分かる書類が要ります(施行規則第75条第3項)。
- 賃貸住宅 ― 家主の承諾が必要です。工事の範囲や、退去のときの扱いも、承諾をもらうときに確かめておくと安心です
- 家族が所有する家 ― 夫や妻の名義の家で工事をするとき(練馬区の案内)や、子どもの名義の家に本人が住んでいるときも、その所有者の承諾が必要です
親本人だけの名義の家なら、この承諾は要りません。共有名義なら、原則として全員の承諾が必要です(練馬区の案内)。アパートなどの集合住宅では、練馬区は、工事できるのは一般に本人の専用の部屋に限られるとしています。洗面所やトイレが共同など特別な事情があれば、所有者の承諾を得て共用の部分が対象になることがあります。その事情は理由書に書いてもらいます。
訪問業者に勧められたとき
その場で契約しないでください。訪問で勧められた工事がすべて問題というわけではありませんが、多摩市は、工事業者が勧誘に訪れ、利用者の状態に合っていない工事を強引に進めるなどのトラブルが全国で発生しているとして、検討の段階でケアマネジャーや地域包括支援センターに相談するよう案内しています。
「介護保険が使える」と言われたときは、その工事が対象になるか、契約の前に相談先に確かめます。できれば複数の業者から見積もりを取ってください。国の通知も、そう説明するようケアマネジャーなどに求めています。契約してしまって困ったときは、消費者ホットライン188に相談できます。訪問業者の手口と断り方、業者の選び方は「無料で屋根点検」訪問業者は危険サインでも説明しています。
20万円をもう一度使える場合
20万円の枠は、原則として今住んでいる家ごとに、1人20万円までです。鎌倉市は、何回かに分けて使うこともできると案内しています。枠が改めて20万円に戻る例外は2つです(老企第42号)。前の枠の残りは上乗せされません。
- 転居したとき ― 新しい家で、改めて20万円までの枠を使えます
- 介護の必要の程度が3段階以上上がったとき ― 1回に限り、改めて20万円までの枠を使えます。上がっただけで自動的に適用されるのではなく、その状態で工事を行うときの例外です
この「3段階」は、要介護度がそのまま3つ上がるという意味ではなく、住宅改修のための6つの段階で見ます。最初に支給を受けた工事を始めたときの区分を基準にします。
| 最初の工事を始めたとき | もう一度使える状態 |
|---|---|
| 要支援1 | 要介護3以上 |
| 要支援2、要介護1 | 要介護4以上 |
| 要介護2 | 要介護5 |
要支援2と要介護1は同じ段階です。当てはまりそうなときは、市区町村に確かめてください。
まとめ
- 工事の前に申請する。工事のあとの申請は、やむを得ない事情がある場合の例外
- 対象は手すり、段差、床材、扉、便器と、それに付帯する工事。新築は対象にならない。単なる修理も、練馬区は対象外と案内している
- 20万円はもらえる額ではなく、計算のもとになる上限。1割負担なら支給は18万円までで、超えた部分は自己負担
- 所有者が本人でないときは承諾が要る。賃貸も家族名義の家も同じ
- 業者に勧められたら、契約の前にケアマネジャーか地域包括支援センターへ。できれば複数の業者から見積もりを取る
- 枠が20万円に戻るのは、転居のときと、6段階で3段階以上上がったとき。
介護保険制度は改正されることがあります。このページは2026年11月4日時点で確認できる法令・厚生労働省資料・自治体の案内に基づいています。書類や支払い方法は市区町村によって違うため、お住まいの市区町村の案内もあわせて確認してください。
情報源:介護保険法施行規則第75条・第76条・第94条、介護保険法第45条・第57条、厚生労働大臣が定める居宅介護住宅改修費等の支給に係る住宅改修の種類(平成11年厚生省告示第95号)、厚生省老人保健福祉局企画課長通知 老企第42号(最終改正 平成30年7月13日)、厚生労働省「介護保険における住宅改修」、多摩市 住宅改修の概要、鎌倉市「介護保険住宅改修の手引き」(令和5年2月更新)、練馬区 住宅改修のQ&A、西宮市「居宅サービスは一ヵ月に利用できる上限が決まっています」(2022年4月1日更新)